バルトーク 舞踏組曲【名盤・おすすめ】
ピエール・ブーレーズ シカゴ交響楽団 🤩
バルトーク:舞踏組曲 ピエール・ブーレーズ シカゴ交響楽団 1992年
Bartok : Dance Suite Pierre Boulez Chicago Symphony Orchestra
第1舞曲 バルトークの「舞踏組曲」は、5つの舞曲と終曲の小品が組み合わさった曲です。明るく飛び跳ねている舞曲ではなく、ハンガリー民謡をベースにした土俗性の高い、地味に暗っぽい楽曲です。しかし、聴いているうちに、どこか癖になる曲でもあります。冒頭、打楽器がロールした後、シャンっと鳴らされ、ファゴットが登場します。リアルな低弦の鋭い響きがありますが、軋んだ不気味さはあまり感じられません。
意外とさっぱりと演奏されています。重量感はありますが、粘りけは少なめでようか。ショルティやメストの演奏を聴くと、独特の粘りがあるのですが、ラーメンで例えると、ぎらっ、こってりの豚骨風味ではなく、さっぱり塩ラーメンという感じでしょうか。
第2舞曲 トロンボーン、チューバが加わって金管が咆哮しはじめるのですが、灰汁(あく)の抜けたスマートさ。押しの強いダミ声で、金管が咆吼することを期待していたのですが、あらら~ もっと語尾を押して欲しいかも。
第3舞曲 軽快な夏祭りのような舞曲です。明るく開放的でノリ感があります。弦のしなりが少なく弾むリズムが欲しい気がします。良い演奏なのですが、もう少し煽ってくる演出が欲しい気がします。(ブーレーズさんに期待するなと言われそう)
第4舞曲 コントラファゴットのフレーズの後に、ハープやチェレスタが、ふわっと広がります。ふんわりと空気が漂ってきて、アラジンの魔法使いの世界のように、空想世界が広がります。暖かい空気を流し込んでくる木管と、冷たく綺麗に響くチェレスタの神秘的な世界が感じられます。
第5舞曲 音が連なるなかトリルの音が良く聞こえてきます。馬に乗った侵入者が、地平線の草原から、やってくるかのような気配がします。テンポが速くなると、第2舞曲の蛮族襲来というようなフレーズが再来します。金管は迫力満点で、パーカッションと共に重量感が増してきまする。しかし、期待したほどには、大円団のような盛りあがりには至らず。あくまでも上品に演奏されたのでした。ブーレーズ盤は、ローカル色やノリ感は少なめですが、精緻な演奏なので、分析に聴きたい場合は、面白さが倍増すると思います。
CDカップリング:バルトーク 舞踏組曲、2つの映像、ハンガリーの風景(ハンガーリの5つのスケッチ)、弦楽オーケストラのためのディヴェルメント 出典:YouTube Bartók: Dance Suite, Sz. 77 シカゴ交響楽団 – トピック Provided to YouTube by Universal Music Group
ショルティ シカゴ交響楽団 🤩
バルトーク:舞踏組曲 ゲオルク・ショルティ シカゴ交響楽団 1981年
Bartok : Dance Suite Georg Solti Chicago Symphony Orchestra
ショルティさんの演奏は、ライトナーとブーレーズ時代に挟まれていますが、シカゴ響といえば、この時期、ぶいぶい言わせる破壊力で聴かせてくれます。戦車軍団のように乾いた大地を走り回る感じです。特に、ブラス部門の巧さと圧倒的な音量には、文字どおり血湧き肉躍る感覚に陥ります。しびれる~ 麻痺しちゃうよねという感じでしょうか。
ある意味、飽食時代を代表する演奏とも言えますが、若い年齢の頃に聴くと、ビートも聴いてカラダが自然と反応するという経験をするかもしれません。ある程度の年齢になってしまうと、うっ、ちょっと疲れるかも~という反応になるかもしれませんが、いや、若返りを意図してガンガンに聴くぞーっとなるかもしれません。1980年代に、CDで聴かれたことのある方にとっては、これこれっ、この迫力がないとっ!と懐かしいのではないでしょうか。
ショルティさん自身、スラヴ系出身の方なので、民俗調のフレーズにおける小節まわり、独特の匂いは、ご自身のDNAから放たれるものだと思います。第2舞曲は、蛮族来襲のような感じで、ブイブイ言いながら猛烈な勢いで進みます。第3舞曲は、この速さで木管を吹かすのかと驚きますが、この小節回しが癖になりそうな演奏です。
アタマのなかで音符が弾み、自然と手足が動き始めるかもしれません。現代は、スマーな演奏が主流なので、荒々しい思われるかもしれませんが、自然発火のように熱を発します。独特のハンガリー民謡の匂いに驚かれるかもしれませんが、ぜひ、はまってくださいね。 出典:YouTube Bartók: Dance Suite, BB 86 (Sz. 77) シカゴ交響楽団 – トピック Provided to YouTube by Universal Music Group
ウェルザー=メスト ロンドン・フィル 😘
バルトーク:舞踏組曲 ウェルザー=メスト ロンドン・フィル 1992年
Bartok : Dance Suite Franz Welser-Möst London Philharmonic Orchestra
メストさんの演奏は、想定していたのはスマートな演奏だったのですが、意外と、どろっと濃い演奏です。そのくせ、しなやかで、色彩的、躍動感も持ち合わせています。きっと、パーカッションが好きな方なら、血が騒ぐかもしれません。冒頭、ファゴットの低音の響き、独特のリズム、警告を発するような音を耳にすると、ヤナーチェクのシンフォニエッタに似た雰囲気がします。中間部分にはノスタルジックな甘さがありますが、主題の低弦の響き、掻き鳴らされた音は、不気味で怖さを煽ります。
舞曲第2曲は、「れぇ~ しれし~ れし れ~しれしれしれしれ どら しぃ~ し~そぉしぃ~」と、トロンボーンにチューバも加わり、金管がねばっこく咆吼します。独特のリズムと相まって、まるで蛮族襲来の様相です。ローマ帝国を滅亡させたバルバロス(バーバリアン)が、ハンガリーに侵入し、居座っちまったぜという感じなのです。野蛮で略奪されるかのようなリアルさ。迫力満点の演奏です。
舞曲第3曲は、軽快な夏祭りのような舞曲なのですが、時折、横笛のようなひゃーっと鳴ってくる音があり、五音音階という東欧風のフレーズが、懐かしい気持ちにさせます。ここは、暗くてグロテスクというよりは、軽快で明るい聞きやすさがあります。舞曲第4曲は、夜のシーンのようで、生暖かい空気感があり、砂漠近くの草原で、夜空を見上げているかのような雰囲気です。遠くに動物のうなり声が聞えているようです。
舞曲第5曲は、次第に高揚して、ぴらっらっらっ んぱっ んぱっ と鳴っていたと思ったら終曲に続いていきます。ラストは、やっぱり蛮族襲来のような主題が登場。舞曲第3曲の主題も戻ってきますが、総力戦を戦った後の、雄叫び状態でド迫力の大円団となって終わります。
メスト盤は、もう少し録音がクリアであれば、面白い演奏になったかもしれません。特に、舞曲第2曲が、原初的で迫力があります。マッチョな方には好まれる曲かもしれませんが、反面、優しいのがお好きな方には、敬遠されそうですね。(性別で表現しちゃまずそうなので~ 婉曲な表現です。)サービス精神満点のオケの演奏でした。
CDカップリング: ストラヴィンスキー 火の鳥 全曲版(1910年版)、 ストラヴィンスキー 管楽器のシンフォニー(1947年版)、バルトーク 舞踏組曲 出典:YouTube Dance Suite, Sz. 77 London Philharmonic Orchestra Provided to YouTube by Warner Classics
バルトーク 舞踏組曲【解説】
「舞踏組曲」Sz.77は、バルトークが1923年に行われた、ブダペスト市政50周年の記念音楽祭のために作曲したものです。この記念音楽祭にあたっては、作曲家の三人、ドホナーニ、コダーイ、バルトークに対し、書き下ろしの依頼があったようです。
第1舞曲 三部形式で、ファゴットが狭い音程間の「部分的に東洋・アラブ風」の旋律を導き出して始まり、やや盛りあがって終わると、ハープのグリッサンドで一変し、リトルネロにはいって、ハンガリー民謡風の静かな旋律が、ヴァイオリンに乗って現れます。
第2舞曲 三部形式で、ヴァイオリンが、荒々しくリズムに特徴があるハンガリー風の旋律を奏し、怒濤のような舞曲になります。静まるとハープのグリッサンドで再び雰囲気は一変して、リトルネロに入り、クラリネットが旋律を奏します。
第3舞曲 ロンド形式で、ハンガリー・ルーマニア(特にリズムで)やアラブ風舞曲が、華やかなオーケストレーションで次々に現れます。ロンド主題の音階は、五音音階に基づくもので、リトルネロなしで休みなく次の曲に続きます。
第4舞曲 ほぼ三部形式で、夜の音楽を思わせる静かな舞曲です。アラブ風の旋律が、静穏な弦楽器の密集和音の中から出現してきます。その雰囲気を引き継ぐように、リトルネロもまた、静かに切れ切れに出現します。
第5舞曲 バルトーク自身が、非常に原始的な舞曲で、どこに由来するとも言えないと述べているそうです。
終曲は、第5舞曲のリズムで、弦楽器が、低弦から4度間隔で積み重なっていきます。金管楽器が合いの手を入れてきます。この手法は、「中国の不思議な役人」の冒頭部に似ているとのことです。各舞曲やリトルネロが次々と再帰し、最後は、第3舞曲のテーマから派生した動機で、華々しく終わります。
演奏するには、コーラングレ、バスクラ、コントラファゴットに持ち替えが必要であったり、ヘ調のホルン、変ロ調のトランペット、多彩な打楽器、チェレスタなど大きな編成が必要です。民謡風の旋律で、独特のリズムや節回しでローカル色の強い楽曲で、個性的な約17分の曲。シコを踏んだようなリズム、五音音階の音のトーンが、少し泥臭いけれど楽しいです。初めての方は、舞踏第2曲を聴いてください。ここで好きか嫌いか、まっぷたつに分かれる気がします。
バルトーク 舞踏組曲【ディスク情報】
1981年 ゲオルク・ショルティ シカゴ交響楽団 Dec
1992年 ブーレーズ シカゴ交響楽団 G
1992年 ウェルザー=メスト ロンドン・フィル EMI
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