R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」【名盤・おすすめ】
R=コルサコフ(リムスキー=コルサコフ)の交響曲第2番「アンタール」は、エキゾチックで、色彩感あふれる夢幻の世界へ誘われます。千夜一夜物語 アラビアンナイトの世界のようです。交響曲に分類されていますが、四つの楽章で構成され、それぞれにタイトルがあります。1897年の第3版で「交響組曲」に改められています。第1楽章:アンタールの夢 第2楽章:復讐の喜び 第3楽章:権力の喜び 第4楽章:愛の喜び です。
ケース・バケルス マレーシア・フィル 🙂
R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」ケース・バケルス マレーシア・フィル 2002年
Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2 in F-Sharp Minor, Op. 9 “Antar” Kees Bakels Malaysian Philharmonic Orchestra
バケルスさんの演奏は、濃厚さはありませんが、適度な甘さと、とろみ感があります。第1楽章の「アンタールの夢」は、軽やかで抒情的です。第2楽章「復讐の喜び」の冒頭では、いきなり、ずん ドコドコ ずん ドコドコと、大太鼓のドスンという大きな響きがあります。アロバットが炸裂しているわけでも扇動的でもなく、劇的な効果としては、多少薄い気がします。
第3楽章「権力の喜び」は、R・コルサコフならではの派手さのある楽章です。華麗なるオーケストラレーションで、ここだけ聴くだけでも値打ちがあります。演奏としては、権力の喜びなので、もう少しガッツリ演奏してもらう方が嬉しいでしょうか。第4楽章の「愛の喜び」は、健康的で明るく、もう少し妖艶でも~ 良いかもしれません。
CDカップリング:R=コルサコフ シェエラザード、交響曲第2番アンタール 出典:YouTube Symphony No. 2, Op. 9, “Antar” マレーシア・フィルハーモニー管弦楽団 – トピック Provided to YouTube by NAXOS of America
ヨンダーニ・バット フィルハーモニア管弦楽団 😐
R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」ヨンダーニ・バット フィルハーモニア管弦楽団 1997年~98年
Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2 in F-Sharp Minor, Op. 9 “Antar” Yondani Butt Philharmonia Orchestra
ヨンダーニ・バットさんの演奏は、1897年版であるという記載ありますが、これが最終稿(第3版)になるのだと思います。独特のオリエンタル調の色彩感や粘りが少なめです。ブラスの迫力は、そこそこにありますが、吹奏楽曲のようにも聞こえてます。杓子定規に拍を刻んで、特に、第3楽章「権力の喜び」は、行進曲のようです。
R=コルサコフの交響曲は、あまり有名ではありません。遙か昔に、交響曲第1番を聴いて以降、久々に第2番の「アンタール」を聴いて、若い頃に、聴きたかったなあと思いました。学校の音楽鑑賞の時間に、聴くのにうってつけの楽曲のように思います。オリエンタルな色彩感、華麗で、陶酔的な旋律が詰まっており、イメージも湧きやすい曲だと思います。また、機会を見つけて、他の交響曲を聴いてみたいと思います。
CDカップリング:リムスキー=コルサコフ:歌劇「皇帝の花嫁」序曲、セルビアの主題による幻想曲、交響曲第1番、第2番1897年版
ドミトリー・キタエンコ ベルゲン・フィル 🥰
R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」ドミトリー・キタエンコ ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団 1993年 Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2 in F-Sharp Minor, Op. 9 “Antar” Dmitri Kitayenko Bergen Philharmonic Orchestra
キタエンコさんの演奏は、格調高く、本格的に真摯に演奏されています。録音状態も良く、聴き応えがあります。この交響曲第2番「アンタール」は、交響曲というより交響詩のようにストーリーがありますし、抒情的にも、吹奏楽風にも演奏ができるのではないでしょうか。(第3稿で組曲に改められています)キタエンコさんの演奏は、めちゃ真面目に演奏されてて嬉しいですね。
このアンタール 実は、6世紀に実在した詩人のお名前です。ウィキペディア(Wikipedia)で調べてみたら、アンタラ・イブン・シャッダード(Antara Ibn Shaddad)さんとのこと。詩人の夢のなかの三つの願い事が、ストーリーとなって出てきます。これが詩人の夢なのかしらんと、あきれてモノが言えないような世俗的なタイトルなので、驚きますが、とりあえず第1楽章はアンタールの夢、2楽章は復讐の夢、3楽章は権力の夢、4楽章は愛の夢だそうで、復讐だの権力だの愛だの、すごくアブナイ 願い事ですよね。
キタエンコさんの演奏は、いわゆるロシア臭さはなく、ニュートラルに標題付きの交響曲として聴けます。しなやかで抒情的で、若い人の夢が、膨らみ楽しめる要素も多分に含まれていると思います。ふんわりした長い旋律が、聴きどころで魅惑的です。楽章によって印象が異なりますが、ゆったりとしたフレージング、叙情性と馬力、そして木管が優美で、満足度の高い演奏です。
CDカップリング:リムスキー=コルサコフ:交響曲全集1番~3番、スペイン奇想曲、序曲「ロシアの復活祭」、サドコ(作品5)、ピアノ協奏曲(作品30)ピアノ:ジェフリー・トーザー 1993年録音
エフゲニー・スヴェトラーノフ ロシア国立交響楽団 🤩
R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」エフゲニー・スヴェトラーノフ ロシア国立交響楽団 1993年
Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2 in F-Sharp Minor, Op. 9 “Antar” Evgeny Svetlanov Russian State Symphony Orchestra
スヴェトラーノフさんの演奏は、ゆったりした恰幅の良いもので、華麗なブラスのサウンド、甘美で優美な演奏です。
第1楽章の「アンタールの夢」は、黒い響きで幕が開きます。悪夢だな~という感じで、低弦の響きのなかで、ティンパニーが、ぼわわっ ぼわわっと叩かれ、パルミラ遺跡で夢を見ているという設定となっています。
パルミラ遺跡で、隠居生活していたアンタールの夢のなかに、美しいカモシカが現れます。しかし、大きな鳥に追いかけられているので、それを助けたところ、カモシカは、パルミラの女王が化身したものだったそうです。御礼に、三つの願い事を実現させてあげましょうということで、夢物語が始まります。パルミラ遺跡に、カモシカは、ありえないだろう~ 山羊の間違いでは~と思うですが、それは、さておき。
フルートとオーボエの旋律が、エキゾチックです。何度も繰り返されて登場します。テンポが遅く甘みのあるフレージングだったので、最初は苦笑いして聴いていたのですが、馬力があり、ドンドンっと入ってくる大太鼓は圧巻です。少し濃厚すぎるため、砂漠地帯というより熱帯雨林のようなのですが、つかみは濃厚で重厚でも、聴き進むと度合いは薄くなってきます。
大きな旋律の膨らみがありますが、起伏の変化に乏しく、これで終わっちゃうのぉ~という恨みが残るほど。単純なフレーズを繰り返すなかで、いろんな楽器が登場し、彩りがアップしていきます。これが、R=コルサコフの後の作品に大きく開花するようです。色彩感を磨く一つの楽曲だと感じます。
第2楽章「復讐の夢」は、金管の力強さがあり、トランペットとシンバルは、テンション高く鳴っています。スピード感があまりないので緩く感じますが、ティパニが、ガツンっと入ってきます。第3楽章「権力の夢」は、低弦が、力強く勇壮にマーチングバンド風に演奏されます。ヴァイオリンのフレーズは、色彩感があり、後のシェエラザードの様相を醸し出しています。特に、ホルン裏の木管の使い方が、匠レベルです。
第4楽章「愛の夢」は、濃厚な色香にやられます。エキゾチックで、夢の楽園のような雰囲気です。クラリネットやフルート、オーボエ、そして、コーラングレが使われ、蠱惑的な旋律に、甘さと香りが詰まっています。爽やかも感じるもので、青空のもと小鳥たちが飛んでいるような涼しさがあります。
最後には、ハープの音に挟まれ、女王と愛をはぐくみ、ゆったりと~昇天しちゃうラストですが、フェードアウトするので、夢のなかだったことがわかります。代表曲の「シェエラザード」ほど有名ではありませんが、改訂に改訂を重ねただけあって、楽しめる要素があります。
カップリング:リムスキー=コルサコフ:交響曲第1番、2番「アンタール」(1876年版)同じ演奏ですが、2枚組CDBOXもあります。交響曲第1番~3番、音画「サトコ」、貴族たちの行進~歌劇「ムラダ」、歌劇「プスコフの娘」序曲、歌劇「皇帝の花嫁」序曲、 歌劇「サルタン皇帝の物語」 ~3つの奇跡~ 出典:YouTube Symphony No. 2, Op. 9 “Antar” Russian State Symphony Orchestra – トピック Provided to YouTube by Believe SAS
ネーメ・ヤルヴィ エーテボリ交響楽団 🤩
R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」ネーメ・ヤルヴィ エーテボリ交響楽団 1987年
Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2 in F-Sharp Minor, Op. 9 “Antar” Neeme Järvi Gothenburg Symphony Orchestra
N・ヤルヴィさんの演奏は、重いです。濃密な旋律を、こってり濃密に演奏されると、やっぱねえ~ 第4楽章の最後には、こうなりますかというオチがついています。スヴェトラーノフさんの演奏と比較すると、スヴェトラーノフさんの演奏の方が、濃密なのですが、柑橘系の香りがするような感覚で、フェードアウトしていきます。で、この夢の展開は、悪くないと思ったりします。
しかし、ヤルヴィさんは、低音重視で、いつまでも豚骨ラーメンを食べているように、濃厚で重みが残ります。これは好みでしょうか。CDカップリング:リムスキー=コルサコフ:交響曲全集1番~3番、序曲ロシアの復活祭、スペイン奇想曲 出典:YouTube Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2, Op. 9, “Antar” エーテボリ交響楽団 – トピック Provided to YouTube by Universal Music Group
ロリン・マゼール ピッツバーグ交響楽団 🤩
R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」ロリン・マゼール ピッツバーグ交響楽団 1986年
Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2 in F-Sharp Minor, Op. 9 “Antar” Lorin Maazel Pittsburgh Symphony Orchestra
マゼールさんの演奏は、大まじめです。指揮者と可愛いCDのイラストのギャップに笑えてしまいますが、アラビア詩人「アンタール」の三つの願いごとが、壮大なストーリーとして描かれていきます。
第1楽章「アンタールの夢」は、アラジンと魔法使いのように、雲が湧き出てくるかのように始まります。低弦の響きのなかで、ティンパニが、どろどろと叩かれ、妖艶なフルートが登場します。序奏部分までは遅いのですが、スッキリした演奏です。色彩的に面白く、妖艶で覆うような空気感から、すーっと立ち上ってくる光のようなモノが、木管のフレーズで表現されています。鮮やかなフルートは、クリアに輝いています。おそらく、これが一頭のカモシカ(女王ギュル・ナザール)でしょう。渦巻く低弦、ブラスが重量が増してきます。そして、柔らかいホルンは、緩やかに停滞した夢として感じられます。
第2楽章「復讐の夢」は、弾まない付点のリズムが気になります。ドンドン、ジャンジャンっとは鳴ってはいるのですが、ヌケが悪く、輪郭のはっきりしない茫洋としたもの。押し出しの悪さを感じます。
第3楽章「権力の夢」は、マーチングバンド風のフレーズで始まります。ドン、シャンシャンと鳴るのですが、いささか籠もりがち。斉唱のところは堂々としているのですが、録音のためか柔らめです。鐘とタンバリンなど、多彩な音が重層的に聞こえてきます。
第4楽章「愛の喜び」は、鳥の鳴き声のように木管が入ってきます。大変美しく、妖艶でエキゾチックな世界です。まるで、美術館の絵画のように、めくるめく音として感じられます。木管が好きな方には、垂涎でしょうか。ゆったりとしたアラビア風の旋律が流れ、木管と弦が大変美しい演奏でした。
CDカップリング:チャイコフスキー:交響曲第2番、リムスキー=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」
出典:YouTube Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2 in F-Sharp Minor, Op. 9 “Antar” ロリン・マゼール – トピック Provided to YouTube by Universal Music Group
イルジー・ビエロフラーヴェク ブルノ・フィル 🙂
R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」イルジー・ビエロフラーヴェク ブルノ・フィル 1977年
Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2 in F-Sharp Minor, Op. 9 “Antar” Jiří Bělohlávek Filharmonie Brno
ビエロフラーヴェクさんの演奏は、丁寧に綴られたストーリー性のあるもので、雰囲気があります。決して派手な劇的な演奏ではありませんが、木管フレーズが綺麗で、思わず惹きつけられる演奏です。やっぱり語り口が巧いです。
CDカップリング:R=コルサコフ 歌劇「見えざる町キーテジと聖女フェヴォローニャの物語」組曲 スメターチェク プラハ響1958年録音、歌劇「金鶏」組曲 スメターチェク プラハ響 1959年録音、交響曲第2番アンタール ビエロフラーヴェク ブルノ・フィル 1977年録音 出典:YouTube Antar. Symphonic Suite, Op. 9 – Largo. Allegro ニコライ・リムスキー=コルサコフ – トピック Provided to YouTube by Supraphon
エルネスト・アンセルメ スイス・ロマンド管弦楽団 🙂
R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」エルネスト・アンセルメ スイス・ロマンド管弦楽団 1954年
Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2 in F-Sharp Minor, Op. 9 “Antar” Ernest Ansermet Orchestre de la Suisse Romande
R・コルサコフの交響曲第2番「アンタール」は、デッカ・レコードによってステレオで録音された最初のクラシック音楽です。これは1954年、エルネスト・アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団との共演でした。とのWikipediaでの記載があったので、参考に掲載します。リマスタリング盤です。出典:YouTube Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2, Op. 9 “Antar” スイス・ロマンド管弦楽団 – トピック Provided to YouTube by Universal Music Group
R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」【解説】
R=コルサコフ(リムスキー=コルサコフ)の交響曲第2番「アンタール」(作品9)は、1868年に作曲されています。コルサコフが24歳頃の作品で、若い頃に交響曲として作曲したものの、後に1875年と1897年に改訂を行っています。最後の第3版 1897年において、交響組曲とされましたが、「交響曲第2番」として扱われることが多いようです。
四つの楽章で構成されています。六世紀アラビアの詩人アンタールの見る夢と、彼が夢の中で実現を約束される三つの願望を音化しています。中東の民謡などが主題として使われているそうです。ストーリーは、現世をはかなんで、パルミラの廃墟に隠遁していたアンタールは、ある日、一頭のカモシカを襲う巨大な鳥に、槍を投げつけて追い払います。カモシカの正体は、パルミラの妖精の女王ギュル・ナザールでした。夢の中で、女王の宮殿に招待され、彼女から礼として「人生の三つの喜び」を贈ると約束されるというものです。
第1楽章:「アンタールの夢」 廃墟の描写とアンタールの主題~女王の主題、鳥の攻撃と撃退~宮殿の描写~女王とアンタールの会話~宮殿 第2楽章:「復讐の喜び」、第3楽章:「権力の喜び」、第4楽章:「愛の喜び」
リムスキー=コルサコフの交響曲は、第1番から第3番まであるのですが、交響組曲「シェエラザード」がダントツで有名で、続いて管弦楽が人気作品となっています。第2番は、千夜一夜物語のように、オリエンタルな要素がたっぷり詰まっています。夢に誘わちゃうストーリー性があり、甘くてシンプルです。
リムスキー=コルサコフは、海軍貴族の家系だったので海軍に務めますが、作曲のスタートは、若い頃から独学とバラキレフの応援を得た兼業作曲家でした。海軍を辞めて大学教授に任命されてから、再度、基礎を学ぶことにしたようで、自作の改訂やムソルグスキーの作品を補筆したり。結果、管弦楽の本を著述しています。大学教授として有名な門下生たちを輩出していますし、人脈もすごい! 自作の作曲は人生の後半が多いです。作曲に専念してからの活躍がめざましい~ これらを知って初期作品に戻って聴いてみるのもおすすめです。
R=コルサコフ:交響曲第2番「アンタール」【ディスク情報】
1954年 アンセルメ スイス・ロマンド管弦楽団 Dec
1977年 イルジー・ビエロフラーヴェク ブルノ・フィル SUP
1986年 マゼール ピッツバーグ交響楽団 TELAEC
1987年 N・ヤルヴィ エーテボリ交響楽団 G
1993年 スヴェトラーノフ ロシア国立交響楽団 R
1993年 キタエンコ ベルゲン・フィル CHANDOS
1997年 ヨンダーニ・バット フィルハーモニア管弦楽団 ASV
2002年 ケース・バケルス マレーシア・フィル BIS
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