イベール:交響組曲「寄港地」【名盤・おすすめ】
イベールの交響組曲「寄港地」Escales, 3 Tableaux Symphoniques は、地中海巡りの旅を音化したものです。次の三つの曲で構成されています。
1 ローマ ~ パレルモ Rome ~ Palermo
2 チュニス~ ナフタ Tunis ~ Nefta
3 ヴァレンシア Valencia
ジョン・ウィルソン シンフォニア・オブ・ロンドン 😘
イベール:交響組曲「寄港地」 ジョン・ウィルソン シンフォニア・オブ・ロンドン 2019年
Ibert: Escales, 3 Tableaux Symphoniques John Wilson Sinfonia of London
ウィルソンさんの演奏は、多少ブラスバンド風の演奏かな~って思いますが、ダイナミックで、現在版A・プレヴィンさんのような指揮者かな~と思ったりします。ご機嫌なフランス管弦楽曲が詰まった楽曲が聴けるので、お薦めです。CDカップリング:フランス管弦楽曲集 シャブリエ 狂詩曲「スペイン」、デュリュフレ 3つの舞曲、サン=サーンス 交響詩「オンファールの糸車」、ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」、イベール交響組曲「寄港地」、マスネ タイスの瞑想曲、ラヴェル スペイン狂詩曲 出典:YouTube Escales… : I. Rome-Palerme ジョン・ウィルソン – トピック Provided to YouTube by PIAS
ネーメ・ヤルヴィ スイス・ロマンド管弦楽団 🙂
イベール:交響組曲「寄港地」 ネーメ・ヤルヴィ スイス・ロマンド管弦楽団 2015年
Ibert: Escales, 3 Tableaux Symphoniques Neeme Järvi Suisse Romande Orchestra
N・ヤルヴィさんは、ホント、何でも振りますね~ ロシアものからフランスものまで、なんでもござれ~という感じで、シャンドスには欠かせない指揮者です。ニッチな分野でご活躍という有り難い存在です。ご本人は大変でしょうが、結構喜んでいたりして。で、交響組曲「寄港地」は、三つの楽曲に分かれており、三つの交響的絵画ともいわれています。
イベールは、第一次世界大戦中は海軍士官だったので、あちこちに赴任したことがあるのでしょう。この楽曲は、 その時の印象を、楽曲としてまとめたもの。この寄港地の演奏は、スイス・ロマンド管弦楽団がオケを務めているので、穏やかで繊細な演奏です。サブスクを利用して拝聴したのですが、悪くない(なんと偉そうな発言っ)第2曲のチュニスからネフタまでの陸路は、オーボエの存在が大きいですよね。特に、エキゾチックさは感じませんが、スッキリ。第3曲のヴァレンシアにおける金管も鮮やかで、落ち着いた演奏です。
CDカップリング:イベール 寄港地、ドゥルシネアのためのサラバンド(映画「ドン・キホーテ」)、祝典序曲、妖精、室内管弦楽のためのディヴェルティスマン、管弦楽のためのロンド モーツァルトへのオマージュ、室内管弦楽のための交響組曲 パリ、管弦楽のためのスケルツォ バッカナール 2015年録音 出典:YouTube Escales… ネーメ・ヤルヴィ – トピック Provided to YouTube by PIAS
ジャン・フルネ オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団 🙄
イベール:交響組曲「寄港地」 ジャン・フルネ オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団 1996年
Ibert: Escales, 3 Tableaux Symphoniques Jean Fournet Radio Filharmonisch Orkest
★ YouTubeの動画はありません。
フルネさんの演奏は、ベールに覆われたような、ふわっとした暖かみのある響きです。おっとり、奥の方から音が届けられます。第2曲「チュニス~ナフタ」は、チュニジアへの旅行です。砂漠地帯をラクダに乗って歩いている雰囲気で、もっと濃厚でもあっても良いほど、蜃気楼に浮かぶような、無重力のような空間が面白い。第3曲「バレンシア」は、カスタネットが鳴る舞曲です。三拍子の激しい楽曲ですが、少なくアッサリ風味。さすがにスペインまで来る覇気が無いって感じでしょうか。もとの熱量が低いせいがありますが、発火、沸点に至らず、フツフツと湧いてこないもどかしさがあります。CDカップリング:イベール 交響組曲「寄港地」、ドビュッシー 歌劇「ペレアスとメリザンド」による交響曲(コンスタン編)、デュリュフレ「3つの舞曲op.6」
シャルル・デュトワ モントリオール交響楽団 😘
イベール:交響組曲「寄港地」 シャルル・デュトワ モントリオール交響楽団 1992年
Ibert: Escales, 3 Tableaux Symphoniques Charles Dutoit Orchestre Symphonique de Montreal
デュトワさんの演奏は、爽やかで、色彩豊か。でも、ちょっと気ぜわしい慌ただしい地中海巡りです。冒頭、フルートが、静かに半音混じりで奏でます。さらっとした湿気の少ない、キラキラした高音が、とっても魅力的な演奏です。木管の巧妙なやりとり、弾んだリズム、畳みかけるクレッシェンド、パーカッション群の鮮やかさに、はじけ出る音。う~ん、どれをとっても、さすがに聴かせます。とても魅力的な演奏で、地中海の乾いた風を感じます。
第2曲の「チュニス~ナフタ」の演奏は、ミュンシュの演奏で聴くと、骨太で、音に重みが感じられました。しかし、デュトワさんの演奏は、呆気にとられるほど、官能的な要素は少なめ。異国情緒が感じられないのは、ちょっとモッタイナイかね。。せっかく、気分転換に海外に出かけたのに~ 第3曲「バレンシア」では、ここはバッチリ。三拍子の華麗なる舞曲になっており、陽気で明るい音色で、光と影を演出し、開放感があふれています。
濃厚なエキゾチックさ、妖艶で深い彫りは感じませんが、大都会のスタイリッシュなリゾート気分を味わうことができます。限られた時間のなかでの、大型客船での旅でしょうか。少なくとも、田舎の港に着きましたという感じの演奏ではありません。これは、旅のスタイルの違い、時代の違いが、演奏の違いに現れているようです。
CDカップリング:イベール 交響組曲「寄港地」、フルート協奏曲、モーツァルトへのオマージュ、交響組曲「パリ」、バッカナール、ボストニアーナ、ルイヴィル協奏曲 出典:YouTube Ibert: Escales モントリオール交響楽団 – トピック Provided to YouTube by Universal Music Group
アンドレ・プレヴィン ロサンゼルス・フィル 😍
イベール:交響組曲「寄港地」 アンドレ・プレヴィン ロサンゼルス・フィル 1989年
Ibert: Escales, 3 Tableaux Symphoniques Andre Previn Los Angeles Philharmonic Orchestra
プレヴィンさんの演奏は、デュトワさんとミュンシュさんの間に位置するような演奏でしょうか。のんびりしすぎず、時間限定の慌ただしい旅でもなく、適度な旅スタイルという感じです。第1曲「ローマ~パレルモ」では、フルートが、半音混じりのエキゾチックなフレーズを生暖かく吹いてきます。導入部分は、くすんだ色彩ですが、ハープの奥まった響きが波を描き、ヴァイオリンが軽やかで、ムーディです。木管よりも弦のフレージングが妖艶で、とろけちゃうかも。
柔らかくありつつも、シャンっ シャンっ とした刻みのリズム感が、カオス状態になっていきます。オーボエ、クラリネットのうねる音が出てくると、むははぁ~っ。とろけちゃう。蠱惑的で、うねうね感が、たまりません。こんな演奏を聴かされちゃうと、船乗りって良いよねえって感じに。
第2曲「チュニス~ナネタ」においては、もうすごい。オーボエの蛇使いのようなフレーズ、打楽器が、密やかに響いてて、チュニジアの迷路のような市場に居るような気分です。もはや沈没状態で、もわもわ~っとした煙で燻されたような感覚です。蛇使いのような木管フレーズは、強烈なローカル色です。いや~っ、このエキゾチック感は、半端ないです。独特の世界がいっぱいに広がります。
第3曲「バレンシア」では、三拍子の舞曲は、カラフルな色彩を放ちます。真夏のカンカン照りのシーンではなく、奥まった袋小路のような場所がイメージされもの。 どこか暗さがあって、開放的な感じはせず、どこか隠微な香りがします。ラストに近づくにつれて、明るい陽射しが降り注ぎ、情熱的です。この光の加減が良いですね。この太陽のジリジリ感というか、彩度の高さとか、太陽光線のあたり具合など、音楽で表現するって難しそうですが、聴いているなかで、光を感じることができると嬉しくなりますね。
CDカップリング:ドビュッシー 牧神の午後への前奏曲、ラヴェル ダフニスとクロエ 第2組曲、イベール 交響組曲「寄港地」、デュカス 交響詩「魔法使いの弟子」 出典:YouTube Ibert: Escales LA Phil Provided to YouTube by Universal Music Group
ジャン・マルティノン フランス国立放送管弦楽団 😘
イベール:交響組曲「寄港地」 ジャン・マルティノン フランス国立放送管弦楽団 1974年
Ibert: Escales, 3 Tableaux Symphoniques Jean Martinon Orchestre national de l’ORTF
マルティノンさんの演奏は、フランスもの演奏者の第一人者です。色彩的で明晰なタクトというのが、マルティノンさんの一般的評価だと思います。寄港地の演奏は、品よく幻惑されて~とろりん。ゆったりとした航海を満喫することができます。第1曲「ローマ~パレルモ」では、フルートの響きと透き通るハープのグリッサンドが、波のように揺れ、未知の世界に誘われます。
冒頭のフルートとハープで、「寄港地」のトータルイメージ、航海に出るという提起されているようです。そして、甘く官能的に響いてきて、誘惑されちゃう気分に。目眩がしちゃいそうなほど、幻想的で幻惑されます。この冒頭わずか数分で、完全ノックダウンです。甘いだけでなく、すっきり上品です。この「寄港地」は、多分に女性的な魅力をイメージさせます。しかし通俗的でも官能美でもありません。航海の女神に誘われていると言えばよいでしょうか。乾燥した、爽やかな柑橘系の地中海、爽快で、見たことのない風景に憧れる気持ち、魅力に取り憑かれた、ワカモノの夢見心地の気分なのだと思います。いつの間にやら、パレルモに着いちゃった。これは、やられました。マルティノン盤では「寄港地」の次に、「架空の愛へのトロピズム」が収録されている。はい、続けて聴いて、とろけちゃってください。
CDカップリング:イベール 管弦楽曲集2枚組BOX イベール ディヴェルティメント フレモー バーミンガム市響、海の交響曲、バッカナール フレモー バーミンガム市響、ルイヴィル協奏曲 フレモー バーミンガム市響、ボストニアーナ フレモー バーミンガム市響、フルート協奏曲 フルート:パユ ジンマン トーンハレ管、祝典序曲、寄港地 マルティノン フランス国立放送管、架空の愛へのトロピズム マルティノン フランス国立放送管、ドン・キホーテの4つの歌 バリトン:ジョゼ・ヴァン・ダム ナガノ リヨン歌劇場管 出典:YouTube Ibert: Escales ジャン・マルティノン トピック Jean Martinon – Topic Provided to YouTube by Warner Classics
シャルル・ミュンシュ ボストン交響楽団 😅
イベール:交響組曲「寄港地」 シャルル・ミュンシュ ボストン交響楽団 1962年
Ibert: Escales, 3 Tableaux Symphoniques Charles Munch Boston Symphony Orchestra
ミュンシュさんの演奏は、リマスタリング盤なので録音は良いのですが、個性的です。ど~っぷりとした骨太な響き、濃厚なリズム、そして派手な演奏で驚かされます。第1曲「ローマ~パレルモ」は、フルートとハープによって、穏やかに、色彩豊かに航海が描かれています。冒頭、フルートの低い音色、摩訶不思議な半音の混じった旋律が、はやくも、エキゾチックに腰をくねらせています。耳の周りを、くすぐりながら濃密な音が~ どろどろどろ~ん。とろり~とした濃密で、重い響きは、ミュンシュさん独特のものです。
ローマの出航シーンで、これだけ重いとは。とにかく、最初からアラビア風というか艶めかしい風情が漂います。地中海への航行というよりも、エジプトでベリーダンスを踊っているかのようで、暑苦しい、艶めかしい、うぷっぷ状態です。快活に軍楽隊のように鳴ってみたり、忙しいっ。なんたってど派手っ!うるさい! 羅針盤が壊れてるんじゃないかと思われます。えへっ。
第2曲「チュニス~ナフタ」は、あ~ アフリカです。蛇遣いのオジチャンの笛のように、鎌首をもたげてきそうな、どよよ~とした空気が蔓延してきて、ねっちこいリズムが肌を覆います。エジプトというより、インドのキングコブラの蛇使いじゃん。オーボエって、こんな音を出すんですねえ。オーボエの2枚リードが、どーなっているのか、よくわからないけれど、楽器が違うのかしらんという音が出ています。オーボエって、ガチョウの鳴き声のような音も出るし、蛇遣いにもなるし、幅の広い楽器ですね。クラじゃないのかしらん。イベールが、足で稼いだフレーズなんかな~ フランス人が、こんな旋律を書けないですよね。
第3曲「バレンシア」に到着して、ようやく普段の西洋音楽に戻ってきたという感じです。カスタネットが鳴っている舞曲で、激しい木琴も鳴り響いて~ 銅鑼がジャーンと一発! ド派手に終わります。巻き舌風のカスタネットのリズムがとても印象的でした。ワタシとしては、チュニジアあたりで船から降ろして欲しい気分になりました。できるなら、パレルモで下船したい気分ですね。演出過剰で、力ずくで鷲づかみにされるパワーで、すっかり船酔い気分になりました。えへっ。
CDカップリング:フランク交響曲、交響詩「呪われた狩人」、デュカス「魔法使いの弟子」、イベール交響組曲「寄港地」出典:YouTube Ibert Escales (Ports of Call) マックス・ホウバート – トピック Provided to YouTube by The state51 Conspiracy
ポール・パレー デトロイト交響楽団 😉
イベール:交響組曲「寄港地」 ポール・パレー デトロイト交響楽 1962年
Ibert: Escales, 3 Tableaux Symphoniques Paul Paray Detroit Symphony Orchestra
パレーさんの演奏は、快活でエキゾチック。古い録音なのでお薦めはできませんが、一聴にあたいする演奏です。白黒時代の映画のBGMのようであり、優美で艶めかしさを、これでもか~的に、おしげもなく振りまいてくれます。いささかサービス過剰だと思いますが、さほど通俗的になっていないところが、巧さでしょう。やっぱり、特筆すべきは木管で、特に、第3曲のバレンシアは、うはは~ クネクネしてて、エキゾチックで、適度なタメ感を持っています。また、あなたホントにオーボエなの?と、確認したくなるような透る音で吹かれていたり、結構、聴きどころアリでした。出典:YouTube Ibert: Escales デトロイト交響楽団 – トピックProvided to YouTube by Universal Music Group
イベール:交響組曲「寄港地」【解説】
ジャック・イベール(Jacques Ibert)は、1890年パリ生まれの作曲家です。1910年、パリ音楽院に入学し、第一次世界大戦中は海軍士官として従軍していました。1919年、カンタータ「詩人と妖精」でローマ大賞を受賞し、この賞によるローマ留学中に提出された作品が、交響組曲「寄港地」(Escales, 3 Tableaux Symphoniques)です。1922年に作曲されました。海軍士官として地中海を航海した際の印象が、実体験が、この楽曲に生かされています。海外に行けないので、せめて~ 地中海、大型客船で巡った気分を味わいた~い!
第1曲 ローマ ~ パレルモ 6/8拍子 ローマを出航し、地中海をシチリア北岸の港パレルモへと向かう航海の描写です。弱音器をつけた弦楽合奏で開始され、フルートが海の情景を描き、トランペットがタランテラを導入し、南国の喧騒の情景が描かれます。
第2曲 チュニス~ ナフタ 7/4拍子(4/4拍子と3/4拍子が交代)リズミカルな中庸の速度で、ティンパニ、コル・レーニョ、ピッツィカートを交えた弦楽の伴奏に乗せて、オーボエがアラビア風のエキゾチックな旋律を自由に展開しつつ奏でます。チュニジアの港町チュニスから、南の奥地の町ナフタへ向かう旅の情景です。
第3曲 バレンシア 3/8拍子 活気をもって、打楽器を交えた、色彩豊かなスペイン舞曲セギディーリャのリズムに乗せて、多彩な主題が登場する。中間部での弛緩を経て、曲は再び活気を増し、交錯する主題のなかで激しさと興奮を加えて全曲が閉じられます。スペイン東部の港町バレンシアの情景です。
ローマの位置は、右上です。そこから、シチリア島のパレルモに行くのに、南におりて~ パレルモから、チュニジアのチュニスへは、地中海を西に向かってすぐ。 チュニスからナフタへは、陸路で、南へ。 バレンシアは、スペインなので、チュニスからアルジェリアのアフリカ大陸の北の縁を西に向かって、北上かな?
イベール:交響組曲「寄港地」【ディスク情報】
1962年 ポール・パレー デトロイト交響楽団 Mercury
1962年 ミュンシュ ボストン交響楽団 R
1974年 マルティノン フランス国立放送管弦楽団 EMI
1989年 プレヴィン ロサンジェルス・フィル Ph
1992年 デュトワ モントリオール交響楽団 Dec
1996年 フルネ オランダ放送フィル DENON
2015年 ネーメ・ヤルヴィ スイス・ロマンド管弦楽団 CHANDOS
2019年 ジョン・ウィルソン シンフォニア・オブ・ロンドン CHANDOS
コメント